特別受益・寄与分

相続分を増減する制度


複数の相続人がいる場合の各相続人を共同相続人といい、法律は、共同相続人ごとの相続分の割合を定めています(民法900条、901条)。

ただし、法律上、相続人の誰かについて、特別な事情を考慮し、その人の相続分を少なくしたり(特別受益)、多くしたり(寄与分)する制度があります。

これに伴い、他の相続人の相続分にも増減が生じます。

なお、特別受益や寄与分の適用には、原則として相続開始から10年という期間制限があり(民法904条の3)、ページ後段で特別受益・寄与分の主張期限としてご説明します。


特別受益

共同相続人の中に、被相続人から遺言によって財産の遺贈を受け、または被相続人から生前に、婚姻や養子縁組のため、もしくは生計の資本として贈与を受けた者がいる場合、それらによる受益を特別受益といいます。
また、このような特別受益を受けた相続人を、特別受益者といいます。

共同相続人の中に特別受益者がいる場合、相続人間の公平をはかるため、特別受益の価額を遺産分割の際に考慮に入れることとされています(民法903条1項)。
以下のとおりです。

生前贈与について

特別受益のうち生前贈与については、相続分の前渡しとみて、その価額を遺産の価額に加えたものを相続財産とみなします(これを「みなし相続財産」といいます)。
そして、特別受益者の相続分は、みなし相続財産を基に算出される相続分から、その生前贈与の価額を控除した残額とされます。
このように特別受益のうち生前贈与の価額を、遺産の価額に加え、相続分において控除することを「持戻し」といいます。

遺贈について

遺贈の価額については、もともと相続財産の中にあるので加算はしません。
遺贈を受けた者(受遺者)の相続分は、相続財産を基に算出される相続分から、その遺贈の価額を控除した残額とされます。
この控除も「持戻し」といわれます。
「相続させる」という遺言があった場合も同様とされています。

特別受益額が相続分以上の場合

特別受益(遺贈または生前贈与)の価額が、相続分の価額に等しく、またはそれを超えるときは、その特別受益者(受遺者または受贈者)は、その相続分を受けることができなくなります(同条2項)。


寄与分

寄与分とは、共同相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がいるときに、そのことを考慮して、取得できる財産を多くする制度です。

遺産の価額から共同相続人の協議で定めた寄与分を控除したものを相続財産とみなし、その価額を基に算出される相続分に寄与分を加えた額が相続分となります(民法904条の2第1項)。

共同相続人間で上記の協議が調わないとき、または協議することができないときは、寄与分を主張する相続人からの申立てによって家庭裁判所が寄与分を定めることができ、その申立てをするためには、遺産分割の審判が家庭裁判所に係属していることを要します(同条2項、4項)。


実際には・・・

実際には、相続人のそれぞれが特別受益を主張しあったり、寄与分を主張しあったりして、立証の程度や、それぞれ納得しやすい解決の方法など様々なことを考慮して調整することもあります。

特別受益・寄与分の主張期限


特別受益や寄与分については、令和5年4月1日に施行された民法904条の3によって、原則として相続開始から10年経過すると主張できなくなっています。

この10年の期間制限は、相続開始が令和5年4月1日より前だった場合も適用されます(令和3年法律第24号附則3条前段)。

ただし、民法904条の3は、例外規定を設けていて、以下の場合は相続開始から10年経過していても特別受益や寄与分を主張できることになります。

  1. 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
  2. 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

この例外規定の「10年」については、相続開始が令和5年4月1日より前だった場合、令和5年4月1日から5年間は期限が猶予され、それより相続開始から10年経過の方が遅ければそのときまでとなります(令和3年法律第24号附則3条後段)。

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このページの著者

 弁護士 滝井聡
  神奈川県弁護士会所属
    (登録番号32182)